‘自然観察日記’ カテゴリー一覧

上越の面白い生き物 70:キカマキリモドキ


 モドキは「似て非なるもの」という意味で、物の名前では○○モドキという風に使われます。
 といっても、身近な例ではガンモドキくらいしか思い浮かびませんが、生き物の世界となるとこれがやたらと多く、スッポンモドキ、サソリモドキ、アゲハモドキ…..いくらでも出てきます。                      
 今回取り上げるカマキリモドキもその一つです。名前の通りカマキリのカマに似た前足をもち、ほかの虫などを襲って食べる習性も同じですが、分類上はカマキリとは遠く離れてウスバカゲロウやツノトンボと同じ脈翅類に属します。
 カマキリモドキの魅力は、変わったスタイルもさることながら、翅脈(ハネにあるすじのようなもの)の美しさにあります。脈翅類というグループ名も、そのメンバーであるクサカゲロウの英名lacewing( = レースのようなハネ)もそこに着目して付けられていますが、なかでもキカマキリモドキのハネは繊細で優美です。あくまで透明なハネに描かれた幾何学模様をながめていると、思わず惹き込まれてしまいます。
 そんなカマキリモドキですが、野外で見ようとするとなかなか大変です。夏から秋にかけて木の葉や花の上で見られるとされていますが、見つけようとして簡単に見つかるものではなく、私は探し始めてから見つけるまでに10年以上かかりました。
 でも、その出会いはあっけないものでした。あるとき虫の友人が採集のついでに我が家に寄ってくれ、たまたまこの虫の話をしたところ、ポケットから毒ビンを取り出し、その中にはなんとカマキリモドキがぎっしりつまっていたのです。呆然としながらどうやって採ったのかをたずねると、夜、長野県の大糸線の駅の近くでコンビニに寄ったら明るいガラス面の外側をいっぱい歩いていたとのことでした。その日話しを聞いて標本を分けてもらった時点で私のモチベーションはだいぶ低下してしまいましたが、後日教えてもらった場所に出かけ、自分でもキカマキリモドキとヒメカマキリモドキを多数採集することができました。
 その後また長い年月がたち、もうこの虫のことを意識しなくなっていた去年の夏、カメノコハムシを探して歩いていた南葉山の山中で目の前をふわっと飛んで木の葉にとまったのが、上越では初めて出会うキカマキリモドキでした。
 それでようやく、大好きなこの虫のことをこの上越の生き物コーナーで書くことができました。

(ミ)

08/11

2011

上越の面白い生き物 69.「ホタルブクロ」 ~雨の好きな貴婦人~



毎年梅雨の季節になると、その雨を待っていたように60cmほどの花茎をぐんぐんと伸ばし、釣鐘型の大きな花をつけるホタルブクロ、栽培種のカンパヌラなどと同じなかまで、このあたりではちょっとした山手の雑木林の縁や草原、海岸に近い松林の中などに多く見られます。上越近辺のものはヤマホタルブクロという東北南部から近畿地方の山地に広く見られる種類です。通常のものにくらべ、全体毛が多く、がくにそっくり返る部分がない….等の違いが有ります。花の色には変化が多く、釣鐘の上部にさっと紅を刷いたようなものや、全体に美しいロゼワインのような色になるものなどさまざまですが、釣鐘の内側にはえんじ色の細点が入ります。雨の雫にぬれてうつむいた姿になんともいえない風情を感じさせられる花です。

人目につく花だけに方言も多く記録され、その数は120以上にも達します。咲く季節に関連したアメフリバナ、アメップリ、花の形から連想されたと思われるトウロバナ、チョウチンバナなどの名が長野県を中心に数多く採集されています。ホタルグサ、ホタルバナなどの名もありますが、これはちょうど咲く時期がホタルの飛ぶ季節と重なるためのようです。
ホタルブクロの名について、牧野図鑑などには「子供がホタルを捕まえて、包む。」とあり、疑う余地もないような書き方です。でも本当にそうでしょうか? 私の周りにそのような体験をした人はおりませんので、実際に子どもの頃、そのようにして遊んだ人がいたら教えてもらいたいと思うのですが、もし捕まえて入れたとして、ホタルが逃げないようにするのが大変で、持ち運びにも不便な気がします。これに関しては、足田輝一さんの「草木夜ばなし・今や昔」という本に別の本からの引用として「ホタルはこの花に入れるのではなく、ネギの枯れた葉に入れるのだ。」 と書かれていて、こちらのほうが現実的なような気がします。案外、この説はホタルブクロの名前から生まれた大人のロマンチックな連想のような感じがしないでもありません。

ではもうひとつの語源説、これも昔からの説ですが、「火垂る袋」に由来するというもので、江戸時代の辞書類などに出る 「火垂る」はすなわち提灯を指す言葉で、花の形からの連想です。いまでも仙台付近では提灯のことを ほたるぶくろ と呼ぶとのことです。
さて、蛍袋と火垂る袋、この文を読まれている方々は、どちらのほうが真実に近いと思われますでしょうか。

(ハ)

06/07

2011

上越の面白い生き物 68.「ムラサキウニとバフンウニ」

「私はウニが好きです」と言うと、たいていの人は「私も好きです」と答えてくれます。でも、ウニを蒐めていると言うと、今度はけげんな顔をされてしまいます。 そもそもウニなんか集めてどうするのと思われる皆さんのために、食べるだけではもったいない、ウニのもうひとつの楽しみ方をご紹介します。
海岸の砂浜を歩いていて、貝がらとは違う丸い殻のようなものを見つけたことはありませんか。それは、死んで打ち上げられ棘が抜け落ちたウニの姿です。ぱっと見てそんなに美しいものではなく、最初は私もあまり興味がありませんでした。でも10年ほど前、インターネットで外国の貝がらの店のカタログをながめていて、白地に紫とオレンジのパステルカラーで彩色された小さなウニ殻が目にとまり、てっきり工芸品だと思ったそれが自然のままの姿だと知ったときから私のウニコレクションが始まりました。国内産・国外産を問わず集めてきて、これまでに60種類ほどが集まりました。ウニは棘がある状態でも面白いのですが、その殻となるとまさに千差万別で、一つ一つが個性的な魅力にあふれています。この辺で見られるウニも、きれいにクリーニングしたらとても美しいことがわかりました。そんなウニ殻を、皆さんも作ってみませんか。

ウニ殻を作るには、まずウニを手に入れなくてはなりません。鮮魚センターで棘付きの生きウニを買ってもいいのですが、自分で採った方が楽しいでしょう。この辺だと鯨波がおすすめですが、岩の多そうな海岸にでかけ、浅いところで岩の隙間や石の裏側を探すと生きたウニが見つかります。大型で棘の長いムラサキウニや小型で棘の短いバフンウニが採集できるでしょう。採れたウニはそのまま日に干して乾燥させ、半乾きくらいになったら軍手などしてこするようにしてできるだけ棘を取り除きます。それから漂白剤(キッチンハイターなど)のちょっと濃い目の液に漬けておくと、数時間で取残しの小棘や表面の薄皮がとれて殻がきれいになり、同時に底の中心部分が抜けてきます。そこから内臓部分を引っ張り出して中をきれいにしてから、またしばらく液に浸けておいて、表面の汚れがなくなったら取り出して、水でゆすいでから乾かせばできあがりです。ただ、こう書くと簡単そうですが、ウニの殻はとてももろくて壊れやすく、さらに小片が繋がり合った構造になっているため漂白液に長く浸けすぎるとバラバラに崩れてしまいます。汚れがきれいにとれて殻も壊れないタイミングで漂白液から取り出すことが美しいウニ殻を作るコツです。
できあがった殻は、いくつか並べたらとてもすてきな部屋の飾りになります。なにしろ、これほどきれいな丸い形は自然界にはなかなか存在しません。淡いパステルカラーの色調と相まって、ながめていると心が癒されるようです。皆さんもぜひお試しください。

外国産のウニ殻いろいろ

(ミ)

04/13

2011

ショウジョウバカマ 雪消えを追って山を登る



野も山も里もまだ深い雪に埋もれて眠っているようなこの季節、雪の下では春先の開花に備え準備を進めている草花もたくさんあります。

今回のショウジョウバカマはその代表選手、雪溶けと同時に可憐な花を咲かせます。短い茎の先にピンク色の小花が丸く集まってつくので、丸い輪になって付く葉と一緒になって遠目には、なにか小さな人形のようなかたちに見えます。近くで見ると紫黒色の長く突き出したおしべが目立ちます。
戸隠の中社のおばあさんの話で「ゴマをくっつけたような花だからゴマバナという」と宇都宮貞子さんの「草木おぼえ書」に出ていますが、本当にその通りだと思いました。同じ著書によると、このほかにもピンクの花と黒いおしべを赤飯と小豆やささげに見立てたコワメシバナ、キツネノコワメシという名もあるそうで、同じような見立てによる、ほほえましい名づけです。植物方言を記録した本には、なぜかわずかしか載っていませんが、人目を惹きやすく分布の非常に広い種なので、調べればもっともっと多くの名があるものと思います。

花が終わったあとは花茎がグングンと伸び50cm位になり、種子を入れた薄い膜のような袋が開いて、糸くずのような種子を散布しますが、この時の様子は早春の花時とまるで違った植物のような印象をあたえます。花と同時に新しい葉も伸びだしますが、このとき一年前と二年前の葉はまだ枯れずに残っています。初夏には完全に古い葉と入れ替わりますが、興味深いことはこの古い葉は先端に小さな芽をつけることで、この芽は古い葉が枯れると同時にひとつの株として独立して行きます。実際に大きな株の周りにはこれに由来すると思われる子株が多くみられ、効果的な繁殖方法であることがよくわかります。
変わったところといえば、北海道から本州、四国まで分布するこの植物、本州の特に日本海側では、平地の落葉樹林から3000m級の高山のお花畑までさまざまな環境下でほぼ連続してその産地が知られていることで、他の種類ではあまり例がありません。
ショウジョウバカマの名は「猩々袴」で、アントシアンにより晩秋に赤く紅葉した葉が重なりあって付くさまを 能「猩々」の赤ずくめの装束から連想したものと思われます。
ちなみに我が家の庭にもショウジョウバカマが植えてあります。これは今年の積雪が4メートルを超えたと話題になった魚沼市(旧入広瀬村)大白川の知人からもらったもの。条件が良かったのか、年々立派な株になっています。彼の地ではこれを「ののはな」と呼ぶそうです。

(ハ)

図は河野昭一編:植物生態図鑑Ⅰより転載。

02/18

2011

湿原の宝石 オオルリハムシ

トゲトゲ、カメノコハムシと続けたハムシの話し、最後はオオルリハムシです。
私は昆虫が大好きで、ジャンルを問わずに標本を集めていますが、ハムシはあまり好きではありません。色はきれいなものが多いものの、形があまりに平凡だったり、どこにでもやたらといっぱいいて蒐集欲が刺激されないのです。そんな中での数少ない例外がトゲトゲとカメノコハムシであり、もう一つがこのオオルリハムシです。
オオルリハムシは日本では本州だけにいて、それもどこにでもいるわけではなく、食草のシロネの生える湿原を中心に各地に点々と分布しています。ハムシの仲間では最大種で全長は1.5センチくらい、形はごくふつうのハムシ型です。色については、おおざっぱに言うと、日本海側にすむものは青(藍色)で、太平洋側にすむものは赤(朱色)です。ですからこの種名は日本海側のものを見て名づけられたはずで、もし先に見つかったのが太平洋側のものだったらまったく別の名前になっていたでしょう。
この虫の魅力は、湿地という特殊な環境にすむためそれぞれの産地が孤立していて、互いに交流のないまま永い時が過ぎた結果、それぞれの地域ごとに別々の色彩になっていること、所謂、色の地域変異が大きいことです。上越地域にすむ個体群は日本海側の青色グループに含まれますが、その色調はさまざまで単純ではありません。その中で一番多く見られるタイプは、輝く藍色に緑色のストライプが入ったとても美しいものです。おそらくオオルリハムシの中でも最も美しいタイプと言っていいと思います。
かっては大潟区の鵜の池が多産地として知られていて、歩道のわきの湿地に生えたシロネの葉上に無数の個体が群がっているのを私も見たことがありますが、現在そこではまったく見ることができません。10年ほど前に、公園を造るための工事でその周辺のシロネがすべて刈り払われたことが原因と言われています。 それでもまだどこかで生き延びているはずと、大潟水と森公園のパークレンジャーの皆さんも探していますが、食草のシロネは復活しているものの、今のところ再発見できていません。
他にも何カ所か産地があったのですが、湿地そのものが失われて行く中で残念ながら次々に姿を消してしまい、現在上越ではっきり生息が確認できている産地は2か所だけです。
でも、昆虫の場合、特に最近はまとまった分布調査などほとんどされていないので、まだ知られていない産地は必ずあるはずです。皆さんも、もしどこかで湿地に生えているシロネを見かけたらぜひ探してみてください。大きくて色も目立つので、いればすぐに見つかります。
それを見たら、宝石のような美しさという表現が決して大げさでないことがきっとわかっていただけることでしょう。

(ミ)

12/16

2010