野も山も里もまだ深い雪に埋もれて眠っているようなこの季節、雪の下では春先の開花に備え準備を進めている草花もたくさんあります。

今回のショウジョウバカマはその代表選手、雪溶けと同時に可憐な花を咲かせます。短い茎の先にピンク色の小花が丸く集まってつくので、丸い輪になって付く葉と一緒になって遠目には、なにか小さな人形のようなかたちに見えます。近くで見ると紫黒色の長く突き出したおしべが目立ちます。
戸隠の中社のおばあさんの話で「ゴマをくっつけたような花だからゴマバナという」と宇都宮貞子さんの「草木おぼえ書」に出ていますが、本当にその通りだと思いました。同じ著書によると、このほかにもピンクの花と黒いおしべを赤飯と小豆やささげに見立てたコワメシバナ、キツネノコワメシという名もあるそうで、同じような見立てによる、ほほえましい名づけです。植物方言を記録した本には、なぜかわずかしか載っていませんが、人目を惹きやすく分布の非常に広い種なので、調べればもっともっと多くの名があるものと思います。

花が終わったあとは花茎がグングンと伸び50cm位になり、種子を入れた薄い膜のような袋が開いて、糸くずのような種子を散布しますが、この時の様子は早春の花時とまるで違った植物のような印象をあたえます。花と同時に新しい葉も伸びだしますが、このとき一年前と二年前の葉はまだ枯れずに残っています。初夏には完全に古い葉と入れ替わりますが、興味深いことはこの古い葉は先端に小さな芽をつけることで、この芽は古い葉が枯れると同時にひとつの株として独立して行きます。実際に大きな株の周りにはこれに由来すると思われる子株が多くみられ、効果的な繁殖方法であることがよくわかります。
変わったところといえば、北海道から本州、四国まで分布するこの植物、本州の特に日本海側では、平地の落葉樹林から3000m級の高山のお花畑までさまざまな環境下でほぼ連続してその産地が知られていることで、他の種類ではあまり例がありません。
ショウジョウバカマの名は「猩々袴」で、アントシアンにより晩秋に赤く紅葉した葉が重なりあって付くさまを 能「猩々」の赤ずくめの装束から連想したものと思われます。
ちなみに我が家の庭にもショウジョウバカマが植えてあります。これは今年の積雪が4メートルを超えたと話題になった魚沼市(旧入広瀬村)大白川の知人からもらったもの。条件が良かったのか、年々立派な株になっています。彼の地ではこれを「ののはな」と呼ぶそうです。

(ハ)

図は河野昭一編:植物生態図鑑Ⅰより転載。