空が日増しに高くなり、吹く風もようやく涼しくなった秋の野で、クロバナヒキオコシの、黒紫色の小花をいっぱい着けた枝が風にそよいでいます。大きさは7ミリちょっとと地味ですが、花冠の濃紫色と黄緑がかった柔らかそうな葉との対比が鮮やかで、なかなか良い感じです。以前、妙高高原でこの花の群生に出会いました。早朝だったので、朝露にぬれた花が折からの朝日にキラキラと輝き、紫水晶の小粒が連なったよう、まるで宝飾品のような美しさで、思わず息をのんでしまいました。

ややこしい名前も、「黒花引起こし」と書けばよくわかります。仲間にはヒキオコシという種類もあり、こちらのほうは花の色が青紫色という以外はほとんど同じですが、高田近辺ではまず見かけません。元上教大教授 長谷川先生のお話では、西頚城の青海や長野県の古間のあたりには多く見られるとのことです。

ヒキオコシという名の由来について、江戸時代の百科事典「和漢三才図会」には「俗にいう比木乎古之(ひきおこし)、引起すの意味は『起死回生、死にかけた人をも生き返らす』という意味である。」とし、続けて 「弘法大師が、山中で腹痛のためまさに死なんとする人に会い、この草を与えたところ忽ちにして癒えた。よってこの草を延命草という。」と出ており、これはこの仲間の草に含まれるエンメインなどの苦味成分によるもので、健胃薬として、腹痛や、食欲不振に、センブリの代用とし使われます。戦時中、生薬の外国からの輸入が途絶えたときは、代用品として活躍したこともあったようです。

それにしてもこの草の苦さは強烈です。ずっと昔の話。私は高校で生物部に所属していましたが、そこでは野外観察の折、新入生にクロバナヒキオコシの葉を食べさせるというのが慣例になっておりました。はじめての者は一口噛んで、その苦さにビックリ、目を白黒させる様子を見て、皆が笑う という悪戯をよくやりました。では最初に仕掛けられたのは誰かというと、日ごろ「物は五感を使って覚えよ」が口癖の、顧問の先生だったに違いないと思っています。 
興味を持った方は、ぜひ一度お試しを。吐き出した後もずっと後まで残る苦さを実感してください。これが効くんですよ。                  
(ハ)