エゾユズリハとユズリハ   人との長いかかわり

冬の雑木林、葉をすっかり落とした木々の隙間に、点々と緑の色が見られます。その中でも幅広のつややかな葉に赤い葉柄がひときわ目立つ低い木がエゾユズリハ、おもに表日本に見られるユズリハの変種とされる植物です。本家のユズリハは高さ10mを越える大木になりますが、エゾユズリハのほうはせいぜい1.8mほどでつつましい感じがします。ですが、その幹は粘り強く、多雪地帯に分布するユキツバキなどと同様に雪の重みに耐えて、しっかりと生きています。

ユズリハはご存知の通り、ダイダイ、ウラジロとともにお正月飾りの主役のひとつです。縁起物といってしまえばそれまでですが、常磐の木を若さや再生の象徴ととらえることは、私たち日本人に限らず北国に住むヒトの共通の思いであるようです。季節が来ると古い葉の上に新葉が立ち上がって、その後古い葉は落ちますが、一般の常緑樹の葉は一年で落ちるのに、ユズリハの場合2年以上も落葉しません。このため新旧二種類の葉がいつ見ても一緒にあることが人々の目を引き、これが古いものが新しいものに代を譲る子孫繁栄の証とされたようです。ちなみに、中国でも「交譲木」の名で呼ばれているそうで、このあたり、日本と同様の発想といえるでしょう。

不思議なことにユズリハと人との縁は、時代をさかのぼるとより濃くなるようです。万葉集には古い名ユズルハ(弓弦葉)として和歌に詠まれ、次の歌が知られています。

          いにしへに恋ふる鳥かもゆづる葉の
              御井の上より鳴きわたり行く  巻第二 弓削皇子

また一種神聖な植物とされていたためでしょうか、儀式のときの神饌や供物の敷き物、容器としてしばしば使用された記録が残っています。このコーナーに何度か登場した「枕草子」にも「ユズリハの葉はふさふさとして艶めき、茎が赤く輝くように見えるのは風情がある。」とユズリハのことをもち上げ、一方で「普段忘れられているのが、大晦日の魂祭りのときだけ使われるのは気の毒な感じがする。」とも書いてあります。

さらに時代はさかのぼって縄文時代、各地から出土する木製遺物の中に、ユズリハの材で作った当時の生活必需品「石斧」の柄が多く見出されています。これは幹から出る枝の角度が、それを使うのに最適のものだったため と報告されていて、意外な使いみちにビックリします。

このようにユズリハというたった一つの植物をとっても、それと私たちの関わりが、何千年にも渡って続いていることについての驚きとともに、人間と自然との関係の途方も無い深さを思わずにはいられません。