ヒキノカサ 絶滅寸前 分布上貴重な植物

ヒキノカサと聞いてすぐにどんな植物かわかる人はよほど植物に詳しい方だと思います。

今これを書いている私も名前だけは知っておりましたが、実物を見たのはつい最近のことでした。この変わった名前の由来については ヒキというのはヒキガエルのヒキ、つまり「蛙の傘」という意味で、湿った土地に見られることと、そのレモンイエローの花を傘に見立てたものとされています。よく川の堤防などでみられるウマノアシガタに近い仲間ですが、ずっと小型で茎の高さが30cm程度、花は径約1.5cm、紡錘形に膨らんだ根を持つことが特徴です。

平野を流れる河川は自然な状態にあっては常に氾濫を繰り返し、流域に土砂を堆積して行きますが、その時、自然にできた堤防のうしろに水はけの悪い湿地を作り出します。天然記念物に指定されているサクラソウの群生で有名な埼玉県の「田島ケ原」はこの代表的な例ですが、ヒキノカサもこのような場所を棲家としています。ところでこのヒキノカサは県内でも確認されている場所がごく少ない貴重な植物なのです。県内では上越市周辺のごく一部の場所だけに知られており、新潟県の貴重な動植物を記録した「レッドデータブックにいがた」にも絶滅危惧種として載っております。元来日本海側にはほとんど記録がなく、表日本に分布するこの植物がなぜ上越市の限られた場所にのみ分布しているのかは学問上大きな謎です。全国的に見ても、かってはもっと広く平野部の湿地にみられたに違いありません。それが土地の開発によってどんどん片隅に追いやられ、かろうじて未改修の小さな河川の周辺に残っているのが現在の姿なのでしょう。ヒキノカサは今やどこの産地でも絶滅危惧種になっております。上越の産地も小さな川のそばですが、将来改修の計画もあるようで、そうなれば貴重な種がまたひとつ絶えてしまうことになります。

ブナ林や亜高山帯林道での自然破壊はマスコミの話題にもなり一般の関心も高いのですが、その一方で、もっとも日常的に自然が壊され続けているのは平野部の河川、湿地です。河川改修や埋め立て、土地放棄などによって種の生命を絶たれた動植物はいったいいくつの数に上るのでしょうか。この地域の開発は私たちの快適な生活に欠かせないだけについ容認あるいは黙認されがちですが、非常に大きな問題だと思います。問題を回避するさしたる方策もないままに、近頃やたらに目に付く建設会社やお役所の「自然との共生」なる標語を見るにつけ、うすら寒い気持ちになるのは私だけでしょうか。    (ハ)