キリ   花は優しく木は強く

平場ではもう散ってしまいましたが、初夏に美しい花をつける木にキリがあります。キリは本当に不思議な木です。海岸では強風の時、まともに波をかぶるテトラポットの内側でも立派に成長していますし、市街地の空地などに生えたものは何度切り払われてもその都度新芽を出し、径40cmにもなる新葉をつけています。キリの名は「実生よりも切った株から出た芽のほうが早く大きくなるところから」と言う説があるのもうなずける程、生命力の強い木です。
紫の大きな花も同じ科のジギタリスなどに似て、木というよりは草花に近い感じで、秋に成熟する果実も枝についた形は歌舞伎の三番叟が持つ鈴にそっくり。中には細かく軽い種子がぎっしりつまっており、口が開くと風に乗って遠くまで運ばれて行きます。

キリは中国原産で古くわが国に渡来したと言われていますが、九州には野生と思われるものも有りはっきりしません。キリはだれでも知っている通り国産でもっとも軽い材で、水や湿気にあっても狂いが出にくく、この性質を利用して下駄や家具、内装材として広く使われます。特に和琴はキリ材が無くては出来ませんし、炭も眉墨、黒色火薬の原料となります。このように成長が非常に早く有用な材であるため、以前はよく「娘が生まれたらキリの木を植えろ」などといわれたものですが、時代が変わり今は昔話になってしまいました。原材も北米など外国産の輸入のほうが断然多いというのにも驚かされます。

ところでキリと言えば花札の図柄にあるように鳳凰がとまる木とされています。古くは「枕草子」にも登場し、皇室や諸家の家紋としても使われるおめでたい木と云われてきましたが、これは誤りで、本当の鳳凰がとまる木はアオギリ(梧桐)なのだそうです。中国の古典ではそのようになっており、江戸時代の本草学者小野蘭山も著書の中で「唐画の鳳には必ず梧桐(アオギリ)を描く」と断じています。
たとえ事実はそうであっても鳳凰はあの美しい薄紫の花の咲く枝にとまって欲しいと思うのは私だけでしょうか。 (ハ)