草と木、雑記帳「植物の名前1」

私達を取り巻く植物、動物にはすべて固有の名前があり、それと実物を比べることから物事は始まります。
ところでこの名前とそのイメージは随分と差のあるものがありますよね。
例えばシクラメンの和名を「ブタノマンジュウ」というような。今回は私の思い出のなかの植物たちの名まえについての話です。

テンニンソウ(しそ科)という植物があります。
わたしは以前からこの名前が好きではありませんでした。
とりたてて美しい花が咲くわけでもなく、ホコリっぽい林道のわきなどに普通にみられるこの草がなぜ「天人」なのか、どうしても理解できなかったからです。

ところがこんなわたしの思いを一変させる光景に出会ったことがありました。
それは今から三十数年前、調査の仕事で群馬と長野の県境を歩いていた時の事、
なにげなく入ったミズナラ林の下は一面のテンニンソウの群れ。
向かい合った大きな葉をいっぱいに広げ、太く大きな花の穂を直立させた姿は、
まさに羽衣を風に翻しながら飛翔する天女を連想させるにじゅうぶんな存在感。
それは私がはじめて「テンニンソウ」の意味を実感する事が出来た
「目からウロコ!」の瞬間だったと思います。
不思議なもので、その時からこの草のことが大好きになってしまいました。

ちなみにこの名は江戸時代享保年間に書かれた書物に出るのが最初。
地方名は今のところ記録なし これは本当に珍しいことで、
余程人の注意をひくことのない地味な存在だったのでしょう。

似たような体験をもう一つ。クジャクシダの名も同じく、もう一つピンとこない名前でした。
確かにクジャクの羽を広げた形との説明には間違いないのですが、
あの華麗な孔雀の羽から来る連想とはちょっと違和感が・・・
というのが正直な思いでした。

ある時の調査で近くの山へ登った時の事、
雪解け水の流れる小川のふちにクジャクシダの群生があったのです。
ちょうど開き始めた葉っぱについた朝露が珠のようになっており、
まさしく水晶玉をとおして孔雀の羽の目玉模様まではっきりと見えたのです。
同行の人たちも一様にその美しさに驚いていました。
これと同じようなことは他の多くの種についてもきっとあるはずで、
これからも実際に体験することで「見ること」の楽しみと意味が何倍にもなって増えてゆくと思います。

また、ある地域にだけおこなわれる方言にも驚くほどよい名があります。次回は方言のいろいろを紹介します。

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