4・5月号のこのコーナーでにせトビトカゲのことを書いていて、もうひとつ面白いものがあったことに気がつきました。
当社店舗のショーケースに入っているアレです。
ご覧になった方からこれはいったい何かとよく聞かれますが、お答えする前にこの存在の古い歴史について述べておきます。

今から500年ほど前、16世紀のヨーロッパでは、世界の不思議なものを集めて展示した「怪奇博物館」というようなものが各地にあって人気を博していたそうです。
ちょうど大航海時代が始まって世界中から珍しいものが大量に入って来ていた頃なのでおそらく展示品には事欠かなかったはずですが、そこで目玉品の一つになっていたのが このジェニー・ハニヴァーと呼ばれる海の怪物でした。

この正体は、エイの仲間のサカタザメなどをそれらしく見えるように加工して乾燥させたものです。ですから作り物であることは確かですが、それではこれは偽物なのでしょうか。

同じようなものに、やはり昔ヨーロッパなどで人気を呼んだという人魚の剥製があります。これは主に日本で作られて世界各地に輸出されていたそうですが、人魚のイメージに合わせて猿と鮭などをくっつけて作ったものなので当然偽物です。
それに対して、ジェニー・ハニヴァーの場合は何かに似せて作ったというわけではなく、元々この作品自体がジェニー・ハニヴァ-なのですから、そういう意味では正真正銘の本物と言えるでしょう。

その上で、かつて怪奇博物館に陳列されていたそれと今ここにあるものが同じかといえば、決してそうは思えません。
世の中がまだ不思議でいっぱいだった時代、ほの暗い海の底を思わせる静けさの中で、人々のあふれる好奇心と驚きの視線を浴びて佇むジェニー・ハニヴァーには生命が宿り、そこにはまさにロマンがありました。

一方で現在のジェニー・ハニヴァーはどうかと言えば、残念ながらせいぜい「面白いもの」でしかありません。
きっと 時の流れが楽しい夢を消し去って、魅力的な海の怪物をエイの干物に変えてしまったのでしょう。

(ミ)