雪の高田、豪雪地帯などといった言葉が嘘のような昨今の小雪、喜んでおられる方もおられるとは思いますが、やはり頸城野の冬は深い雪に覆われ、静寂の中でじっと春を待つ…..のが本当ではないのか。
などと考えるのはあながち私一人ではないと思います。
雪が深ければ深いほど、春を待つ心は大きくふくらみ、大人は雪消えとともに始まるそれぞれの生業を、子供たちは土の上を駆け巡る遊びについて思いを馳せるのです。

その頸城野で最初に花開く野草は何でしょうか。
私はやはり深い切れ込みのある三枚の葉の間から、白い清楚な花を咲かせるキクザキイチゲのことを思います。
平野部のちょっとした林から山地にかけてまで広く見られ、ときどき青紫の花も交じっていて、色の変化も楽しめます。雪のまだ消えやらぬ土の上に真っ先に芽を出して花を咲かせ、木々の葉が茂るとともに姿を消してしまう短命な植物ですが、その可憐な姿は見る人の目をひきつけてやみません。

植物に興味を持ち始めたころに、同好の友人とよく「滝寺のお不動さん」まで植物採集に出かけたものですが、途中の杉林の中に花色の濃いものがあって二人で小躍りして喜んだものです。
友人は長じてから写真を趣味とし、個展を開くまでになりました。
50歳を待たずに逝ってしまった彼の作品の中に濃い水色のキクザキイチゲが何枚もあったことを懐かしく思い出しています。

この近くで見られる同じ仲間に、より大きな花をつけるイチリンソウ、湿ったところを好むニリンソウ、葉の形が丸みを帯びるアズマイチゲなどがありますが、産地に偏りがあってどこでも見られる種類ではないのです。
方言ではそれらを一緒にしてユキワリバナと呼ぶところが野尻湖、戸隠、妙高山麓の村々にあるそうです。

ところで、この仲間はすべて園芸店で見かける「アネモネ」と同じグループに属しています。日本全土では高山から低地まで様々な場所に生育しその数は12種に達します。
その多くは有毒とされていますが、ニリンソウだけは例外で各地で山菜として賞味されています。ただトリカブトの若芽と間違えて中毒することが毎年のように起きており、注意が必要です。

(ハ)