マルバマンサク   さきがけの花

「まず咲く 万作の花」 これは人間国宝、和泉流狂言師の野村万作さんが色紙に書かれた言葉で、井部富夫、高橋鉄雄さんご兄弟の「滝寺窯」の展示室においてあるものです。以前縁あってここを訪れた氏は、この場所が大変気に入って何度も訪問され、御自身で器を作られたこともあったと聞きました。早春の頃ここではよく、花入れにマルバマンサクの花が活けられています。(鳥取県から北の日本海側にみられるものを葉の形で区別しマルバマンサクとよぶのが一般的です)

それはさておき、この言葉のように春のさきがけとしてまず咲く花がこのマンサクで、早ければ3月中旬、まだ他の木々の命が感じられないこの時期に長さ1.5cmほどの細い黄色のねじれた様な四弁花を枝先にたくさんつけます。濃いえんじ色のがくとのコントラストも実によく、目だって見えます。ハンノキなどとともに、上越では、最も早く花の咲く種類の一つでしょう。寒々とした林内にこの花を見つけると、待ち焦がれた季節の訪れを感じ、とてもうれしい気持ちになります。

牧野富太郎博士は「先ず咲く」によるとされる、この名の由来がうまく出来すぎているとの理由で反対され、「花が豊富に、枝に咲き満ちている処から豊年満作の意味が正しい。」と言われています。黄色の花からは黄金の稲穂が連想され、そのような名前になったとの説も良くわかります。長野県の方言に「トキシラズ」というのがありますが、これも何も無い時期に咲くマンサクの花に対する驚きのすなおな表現といえましょう。

今ではほとんど忘れられてしまった里山の仕事に「ボエ切り」とか「ボヨ切り」というのがあります。これは焚き付けや薪にする小枝や細木を山からとって来ることでおもに晩秋の作業として行われました。その切ったものをまとめて括るのに縄などではなく、現場で調達した木の枝を使いました。ガマズミ、リョウブなど何種類かの木を選んで用いましたが、なかでもマルバマンサクのねばりのある枝が最高で、親指くらいの枝を適当な長さに切り、ねじってから使います。絶対にゆるんだり、抜けたりせず重宝したものだそうです。その他、いかだを組んだり、合掌造りの棟木や横木を固定する際などにもねじったこの枝が使われました。それぞれの樹木の性質を知り尽くし、その場に合わせて使いこなす先人たちの知恵には感心させられるばかりですが、このような生きた技術の継承が、年ごとに難しくなっているのも寂しいことだと思います。