左から ホンマイマイカブリ、サドマイマイカブリ、ヒメマイマイカブリ、 エゾマイマイカブリ

左から ホンマイマイカブリ、サドマイマイカブリ、ヒメマイマイカブリ、 エゾマイマイカブリ



このコーナーもお陰様で100 回目を迎えました。きりの良いところで終了とさせていただきます。長い間私たちの駄文にお付き合いいただき、本当に有難うございました。
第1 回のテーマはマイマイカブリでしたが、最後もそれで締めたいと思います。

マイマイカブリはカブトムシやクワガタムシと同じ甲虫の仲間で、オサムシ科というグループに属しています。このなかまは美しい種類が多いこともあって世界的にも人気が高く、かつて昆虫少年だった漫画家の手塚治虫さんがその名前を自分のペンネームにしたことでも知られています。
そんなオサムシ界にあって、マイマイカブリは、巨大で立派な姿からカブトムシ界のヘルクレスオオカブトのような王者的存在です。さらにこの種は世界で日本だけにしか住んでいません。まちがいなく、日本が世界に誇れる昆虫のひとつと言えるでしょう。

ただし、巨大で立派と書きましたが、実はすべてがそうというわけではありません。
北海道から九州まで日本列島に広く分布していますが、地域によって全く別の種類に見えるほど姿を変えていて、その変身ぶりこそがマイマイカブリの大きな魅力なのです。
王者の名にふさわしい全身真っ黒で長い足を持つ大型のタイプがいるのは九州や四国など南の地域で、それが例えば北海道に行くと、ずっと小型で足も短めの普通のオサムシに近い姿になり、頭胸部の色も緑色に変わっています。途中の本州でも地域ごとに姿を変え、その違いによってマイマイカブリは現在8 つの亜種(種類の下の分類単位)に分けられています。

私は、中学生の頃は蝶の収集をしていましたが、たまたまこの不思議な名前を持つ甲虫に興味を持ち調べて行くうちに、すんでいる場所によって形や大きさが劇的に変わり、色も、黒、青、赤、緑と様々に変化することを知り、ぜひ実物を見たいと思うようになりました。
マイマイカブリを初めて採集したのは上越市滝寺の林の中でした。夜行性なので昼間探し歩いても見つからないことを知り、本で調べて、餌を入れた紙コップを昼間のうちにたくさん地面に埋めておき、一晩置いてから見に行きました。ワクワクしながら、でも内心入っているわけないと思いながら一つずつのぞいて行った何個目かのコップの底に、長い足が紫色、頭胸部が赤紫色に輝く宝石のような虫が動いていました。その光景は今もこの目に焼き付いています。
コアオマイマイ私にとって幸せだったのは、上越地域にいるマイマイカブリが美しいコアオマイマイカブリ(亜種名) だったことでした。それにすっかり魅せられてしまい、一人で旅行できるようになるとマイマイカブリを探して各地を歩きました。
九州で出会ったかっこいいホンマイマイカブリ、赤と緑のコントラストが美しい東北のキタマイマイカブリ、特異な形をした佐渡のサドマイマイカブリ、大潟区で見つかった上越にはいないはずのヒメマイマイカブリ...。

振り返れば、その一つ一つの出会いに驚きと震えるほどの感動がありました。
別に研究者ではなく趣味の昆虫愛好家である私の場合、虫の価値は希少性や珍奇さよりも出会った時の感動の大きさで決まります。日本中にいてとくに珍しくもないマイマイカブリですが、私にとっては長きにわたる虫とのつきあいを導いてくれた恩人ならぬ恩虫なのです。

(ミ)