image024桜の季節が終わって野山が新緑でおおわれてくるころ、冬の眠りから覚めて活動を始めた虫たちの種類が一気に増え、林全体が随分とにぎやかになります。
そんな景色を楽しい気分で眺めていると、色鮮やかな蝶たちが気忙しく飛びながら各種の花を訪れているのに混じって、手でつかめそうなくらいにふわふわとゆっくり飛んでいる白い蝶が目に入ります。
花にとまったところを見れば、白と黒 ツートンカラーの半透明のハネ、それがウスバシロチョウです。
上越の平地ではちょうどゴールデンウィークの頃に現れて6月にはもう姿を消してしまうため会える期間はわずかでしかないものの、別に珍しい種類ではないので時期さえ合えばちょっとした雑木林でもふつうに見ることができます。

ウスバシロチョウはその姿からシロチョウのなかまのようにも見えますが、分類上はアゲハチョウのなかまです。もともと寒いところが好きで数百万年前の氷河期の頃には広い地域にすんでいたのが、その後地球の温暖化と共に生息範囲が狭まり、気温の低い北の地域や高い山の上などに取り残される形で今まで生き延びてきたということで、氷河期の生き残りなどと言う表現もされています。
実際日本に3種類いるこのなかまのうち、残りのヒメウスバシロチョウとウスバキチョウは日本では北海道にしかすんでいません。本州の平地や四国にまですんでいる日本のウスバシロチョウは、そんな中で例外的な存在と言えます。

ところで、身近にいるこのウスバシロチョウだけを見ればちょっと変わった蝶くらいにしか思えないのですが、世界に目を広げると状況は一変します。蝶の愛好家や収集家にとっては、パルナシウスの名で呼ばれるこのグループは正に蝶界のスターたちなのです。
世界に35種類ほどが知られ、その多くは白地に鮮やかな赤い紋や青い紋を装い高貴な美しさにあふれています。
ただし、見たいと思っても、先ほど書いたように多くの種類は地球の北の果てやとんでもない高さの山の上にすんでいるので、まずそこまで行くこと自体が容易でありません。
さらに、特殊な生活環境からそれぞれが孤立的に分布していることが多いので、同じ種類でも産地ごとに色や模様が少しずつ違っています。
その結果、種類としては35種類でも、その変異は膨大な数になります。
美しいことと入手しにくいこと、それに変異まで含めれば収集に終わりがなくいつまでも楽しめることがこのグループの人気の理由でしょう。
そう聞くと、日本にもパルナシウスが3種類いるのに地味なものばかりなのかと思われるかもしれません。実は日本でも、ウスバキチョウがその美しい方のメンバーなのです。それも、白ではなくて鮮やかな黄色地に赤紋を持つとびきりの美麗種です。

北海道でも大雪山系の高山帯にしか生息していない貴重種なので、ずっと昔から国の特別天然記念物に指定されていて採集することはできませんが、個体数は少なくないので行けば会うことはできます。
私も学生時代に一度だけ見たことがありますが、お花畑の上を普通のウスバシロチョウとはかけ離れたスピードで飛び回る姿に最初はそれとわからず、しばらくしてから感動がこみ上げてきたことが思い出されます。

(ミ)