201508-009

 日本にすむ蝶は現在250種類ほどが知られていますが、その中で最も美しいとされるものの一つがミヤマカラスアゲハです。
北海道から九州まで広く分布し、春と夏に姿を見せる大型のアゲハチョウです。輝く緑と青を基調とした色彩・斑紋は、繊細な美しさを感じさせるものが多い日本の蝶の中では異色の豪華さにあふれています。こんな蝶が私たちの周りにもすんでいるなんて、なんともすばらしいことではありませんか。

ミヤマカラスアゲハは漢字で書けば「深山烏揚羽」で、私が子供のころは名前の通り山の中にしかいなかったと思うのですが、今は低地でもよく見られます。
それについて、幼虫の餌となるカラスザンショウが平野部で増えてきたことと関係があるような話しをどこかで聞いたような気もします。一方山地ではキハダが主な食樹となっています。
東頸城の安塚では、かつてキハダの皮を原料にした胃腸薬を作っていたのであちこちに植栽され今もたくさん自生しているためか、特にこの蝶が多く見られます。

ただ、どこでも見られるとは言っても、目に入るのはほとんどが飛んでいる姿なので真っ黒にしか見えず、他に何種もいる黒いアゲハと見分けるのも困難です。
また運良く花を訪れている場面に出会ったとしても、同じ場所にじっとしていずすぐに飛んで行ってしまうので、実際にその美しさを確かめられるチャンスはなかなかありません。

それでもぜひきれいな姿を見たいという方がおられたら、8月から9月初旬にかけて妙高高原の笹ヶ峰に行ってみてください。
牧場やキャンプ場の周辺でも飛んでいますがそれは無視してもっと先まで道路を進んで行くと、途中から未舗装のでこぼこ道になって、染み出した水があちらこちらで水たまりを作っています。
そうして天気の良い日にはかなりの数のミヤマカラスアゲハが水を吸うためそこに降りてきています。吸水中は近づいてもすぐに飛び去ったりしないのでゆっくり美しさを堪能できます。
ただし吸水にやって来るのはオスだけで、メスを見るには、時折花に来たりするのを待つしかありません。

またこの時期の笹ヶ峰は、美しいアサギマダラもたくさんいてヒヨドリバナの花を訪れていますし、河原や道路上では珍しいキべリタテハやエルタテハも見られます。
咲き乱れる花々にはクジャクチョウやギンボシヒョウモンなどのヒョウモン類が来ていて、さわやかな高原の空気の中でそんな蝶たちをながめながら過ごすひとときはまさに最高です。

この蝶について、私の忘れられない思い出は、笹ヶ峰の近くの苗名滝で見た光景です。
ある年 夏の盛りに、大勢の人たちが涼を求めて滝に向かう河原のコースから外れた遠くの崖の中ほどに、かたまって咲く青い花を見つけました。
ちょっと違和感を感じて近づいていくと、青い花に見えたのは水の滴り落ちる垂直の岩肌で吸水しているミヤマカラスアゲハの群れでした。たくさんの個体が小刻みに羽ばたいて位置を変える度にキラキラ輝く様子は、まるで動く蝶画を見ているようで、しばらくの間ただ魅入っていました。垂直面での集団吸水を見たのは後にも先にもこの時だけです。

(ミ)