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上越での蝶の季節は、4月の桜の咲く頃に始まります。
市街地でまず目につくのがモンシロチョウとルリシジミで、雑木林ではギフチョウ、コツバメ、成虫で越冬したタテハチョウたちがそれに加わります。
木々の緑が芽吹いたばかりの静かな風景をバックに、ようやく訪れた春を楽しむように元気に飛び回っています。

5月に入ると野山は明るい緑に覆われ、目に入る蝶の種類も一気に増えてきます。その頃、天気の良い日に、街中でもよいのでちょっとした草地があったら注意して見てください。
タンポポやクローバーの花で蜜を吸ったり草の葉上でハネを開いてとまっている10円玉サイズの小さな赤い蝶の姿を見ることができるでしょう。それがベニシジミです。

ベニシジミは春から秋までいつでもどこでもごく普通に見られる蝶ですが、その美しさは普通ではありません。特に春と秋に姿を現すもの(低温期型といいます)は色鮮やかで、輝く金橙色は日本の蝶では他に例がありません。
一方で夏に現れるもの(高温期型)はハネの表面が全体に黒っぽくなります。同じ種類でも春と夏で模様や色が変わる例は他にも多くあり、中にはまるで別の種類に見えるほど変わってしまうものもあります。こうした変異を季節型と呼びます。

ベニシジミのなかまは日本には1種類しかいませんが、同じ仲間は北半球の広い範囲にわたって多くの種類がすんでいます。
英名Copper (銅) が示す通り赤色系のハネを持つのが共通した特徴ですが、そんな中に1種類だけ、きれいな空色のハネをもつLycaena heteroneaという種類が北アメリカの一部の地域にすんでいます。
世界のベニシジミが何十種類も並んだ標本箱の中でひときわ目立つこの蝶を見ると、例外のない法則はないという言葉の正しさとその不思議さを改めて感じさせられます。

もうひとつ、イギリスのLycaena disperはベニシジミ類中最大サイズの美しい種類ですが、1802年に新種として記載された後50年足らずで絶滅したという悲しいエピソードで知られています。
ただ、その後オランダから近い形質を持つ集団を移入したので、今はそれを見ることができるそうです。日本のトキと同じパターンですね。

日本のベニシジミLycaena phlaeasは、同じ種類がヨーロッパからアジア、北アメリカまで広く分布し、細かな違いで20ほどの亜種(種類の下の分類単位)に分けられています。
日本産の学名はLycaena phlaeas daimioで、亜種名のdaimioは大名のことです。こんな小さくてかわいい蝶がなぜ大名なのか理由はわかりませんが、記載されたのが今から100年も前なので、当時海外に日本をアピールする意味で、外国人に知られていそうな言葉を選んでつけたのかもしれません。
同じ頃に命名された蝶の中には、亜種名がgeisha (芸者) のクジャクチョウやsamurai (侍) のエルタテハもいます。

(ミ)