昨年十二月初旬の積雪が、平野部でどんどん消えてゆく_そんなおかしな陽気の一月中旬のこと、家の近くの杉林で雪の中からヤブコウジの株が顔を出しているのに出会いました。いつもならまだまだ深い雪の中なのに、この後の天候はどうなるのか…..。

それはともかく、雪解けの雫にぬれた真紅の実と緑葉には息を呑む鮮烈さがありました。
姿が小さいので草のように見えますがれっきとした木の仲間、長い地下茎を伸ばしてむらがった株を作ります。夏に8 ミリほどの小さな花をつけますが、葉の下に隠れて目立ちません。秋になってかわいいツヤのある赤色の実を数個つけます。色は鮮やかですが透明感は無く、この点宝石に例えれば「赤珊瑚」といったところでしょうか。私たちがこの植物に気付くのは実になってからがほとんどだと思います。 ほぼ全国の丘陵地にごく普通に見られる常緑の小木で、朝鮮半島から中国大陸にまで分布しています。古名は「ヤマタ
チバナ」、冬でも変わらぬ緑の葉と赤い実は目出度いものの象徴ともなり、鉢植えにされて床飾りなどにされ、古くから和歌や随筆の類にも頻出します。「枕草子」の記事からは邪気を祓う宮廷行事にも多く使われたことが分かります。また江戸時代には園芸植物として盛んに栽培され、同じヤブコウジ科の「万両」、センリョウ科の「千両」と並べて、実が貧弱なことから「百両」などと呼ばれることもあったようです。漢方では茎葉を咳止め、痰きり、利尿、解毒の効があるとして、気管支炎や肺結核、高血圧などを治療する目的で使用されるとの事です。

雪とこの植物のかかわりを詠んだ私の好きな万葉歌があります。
この雪の消け残る時にいざ行かな
山橘の実の照るも見む ・・・巻十九  4226
消残りの雪にあへ照るあしひきの
山橘をつとに摘み来な ・・・巻二〇  4471

201502-9作者はともに大伴家持、武勇をもって知られる一方で教養深く繊細な歌も数多く残しております。雪深い越中の国の役人を務めた人の歌ですから、実際に見たままを詠んだものでしょう。最初の歌は十二月に詠んだということで、初雪のときのことでしょうか。
雪の下で春を待つ緑、雪が消えて地上に現れたその姿を見
つけたときの感動は、雪国に住む人に与えられた特権ではないでしょうか。長く厳しい冬をじっと耐えたことへの天の「御褒美」といっても良いのかもしれません。 (ハ)