20141008-07 天候不順で大変だった今年の夏があっという間に終わり、やわらかな日差しに秋の気配が感じられるようになりました。

 この時期、空がキキョウの花の色に変わります。桔梗色という色名のとおり、青紫色に灰色をほんの少し混ぜたような優しい色です。
「秋の七草」の一つに数えられ、秋草の代表ともいえるキキョウは日本全国の山野に分布し朝鮮半島から中国にまで見られる、すがすがしく凛とした風情の野草です。

 花が美しいばかりでなく、その太い根は重要な漢方薬材とされ、痰やせきを鎮め、消炎、排膿などの効果があるとされ、さまざまな薬品に配剤されています。平安時代に地方の国々から都へ運ばれた薬草のリストにも残されており、その薬効は古くから知られていました。
 またスッキリとした五角形の花の形から「家紋」として図案化されたり、陰陽師として一時話題となった阿部清明を祀る「清明神社」の神文(五芒星)にもなっているそうです。
一方で地方名は、東北から中部にかけての諸県で「ボンバナ」という名前が記録される程度で数少なく、キキョウの名が古くから定着していたことの証といえるでしょう。

 ところで秋の七草の始まりは奈良時代の万葉歌人山上憶良の詠んだ歌からといわれていますが、この歌にキキョウの名は登場しません。歌に出てくる「アサガオ」がキキョウを指すというのが古くからの説で、異論もありますが私はこれでよいと思います。
 そして遣唐使にも選ばれるほどの漢学の教養豊かな彼が「桔梗」という名を知らぬはずは無かったと思われるのに、あえて古来からの和名を使ったことに憶良の優しさ、ゆかしさを感じます。
キキョウの名は漢名である桔梗(キチコウ)が変化したもので初めて文学作品に出るのは平安時代の「古今集」からで、それ以降和歌や文章に頻繁に登場するようになります。

 そして憶良の詠んだ歌から時代が下って平安時代に入ると、アサガオはもっぱら中国原産で薬種としてもたらされた現在のアサガオ(牽牛子)を指すようになります。
当時のアサガオは青一色の小さな花をつけるものだけだったらしいのですが、わが国の花には少ない透明感のある青色と物にからんで伸びる様子が珍しかったのか、源氏物語、枕草子など有名な作品にも登場しています。

 かっては全国の草原や明るい林に広く見られたキキョウも開発や生活習慣の変化から、次々と生育地が減少し、ほとんどの地域で絶滅危惧種に指定される事態になってしまいました。
私たちの住む上越市でも愛の風や滝寺といった場所でしばしば見かけたものですが、今では完全に昔話になってしまいました。
 キキョウをはじめ多くの里山の植物は人と場所を同じくして生きて来ました。人が関わらなくなった場所では消えてゆくほかは無いのです。悲しく寂しい話ではありますが。

(ハ)