ナワシロイチゴとモミジイチゴ   キイチゴの仲間

「キイチゴ」と言う言葉の響きに、なぜか懐かしくあたたかいものを感ずるのは私だけでしょうか。これには子どもの頃よくつまんで食べた思い出とともに、おとぎ話の中に出てくるイメージのようなものが、作用していることは間違いないようです。

さて、このあたりで一番良く出会うキイチゴといえば、畔ぎわやちょっとした空き地に生え、ピンクの可愛らしい花をつける「ナワシロイチゴ」でしょうか。花は大きくありませんが、☆型のお皿の上に桃色のお菓子がのっているように見え、その実も真っ赤に熟し、上質なルビーのような輝きでとてもきれいです。トゲのある長い蔓を伸ばして暴れまわることから、農地では嫌われ者になっているようですが、私の好きな花の一つです。ナワシロイチゴの名は「苗代を作る頃に花が咲く」ことから。花の時期は早くて5月下旬で、昔の田植えは今よりよほど遅かったことが、こんなことからもわかります。宇都宮貞子さんの草木ノートに、「長野の鬼無里ではソバマキイチゴという」と出ていますが、こちらは実が熟す時期と関係しています。

このほか多いのは、長野ではタウエイチゴと呼ばれるモミジイチゴ。山手の林縁や斜面などに多い、葉に切れ込みがあって、やや大きめのうつむいた白い花をつける種類です。モミジイチゴは夏にオレンジ色の実をつけ、大きくて甘くジューシィなため、子どもだけでなく、野良仕事のおとなにとってもご馳走でした。今その味を思い出した方もきっと多いことでしょう。フキの葉に包んで絞った果汁だけを飲むというしゃれた方法もあったと聞いています。

ところで、この二つともラズベリー、ブラックベリーといった実の利用のため改良された栽培種と同じ仲間です。この仲間は種類が多く日本に約40種、世界ではそれこそ何百種にも及ぶ大きなグループです。丈の低い木で白い花をつけるものが大半ですが、中には、ベニバナイチゴのように大きく美しい紅色花をつける種類もあります。清少納言の枕草子の「あてなるもの(上品なもの)」に出る「 いみじう うつくしき稚児のいちご食いたる…」のイチゴもキイチゴの一種と推定されています。

私たちのふつうに食べているイチゴ(オランダイチゴ)のほうは、これとは違う草性の種類で、日本にもシロバナノヘビイチゴ他数種が知られています。近世のヨーロッパで南北アメリカ産の原種を交配改良して今のような数多くの園芸品種が作られました。日本には江戸末期にオランダ人によって初めてもたらされ、明治になってから広く普及しました。

※ ナワシロイチゴの写真は長谷川康雄先生からお借りしたものです。

(ハ)