20131008-5

 原野、市街地を問わず、大豆を大きくしたような葉を着けた強靭なつるをどこまでも伸ばし続けるクズ。電柱や植林された木に這い登り被害を与えることも多く、冬に葉は枯れてもつるは生きていて春にはまた芽を出すという文字通り最強の雑草です。海の向こうのアメリカでも緑化材料として持ち込まれたものが所かまわず暴れまわり、植物モンスター扱いされているそうです。

そんな嫌われ者のクズ、実はこれにも私たちの生活に関わる長い歴史がありました。クズという名は古く古事記の時代から知られていますが、各地の方言では ○○カズラ、○○フジなどのつく名が多く、野良仕事で薪その他、物を結わえるのにその蔓がよく使われたことを表すものといわれます。また栄養価の高い茎や葉は牛馬の餌として無くてはならぬものでした。新しく伸びた蔓からは強い繊維もとれ、これで織った「葛布」も古来からの産物でした。現在でも静岡県掛川市で木綿を縦糸にして織られていると聞きます。パリッとした感触の薄茶色のものだそうですが、まだ見たことが無いので実際の感じはわかりません。

 地下30cmくらいのところに横たわる径10cm以上になる長い根茎を掘り取って突きくずし、水にさらして沈殿させたデンプンが「葛粉」で、子どもの頃具合を悪くすると良く飲まされた「くず湯」や、くずきりその他和菓子の材料として欠かせません。けれど石や木の根を除きながら「葛根(かずね)」を掘り取り精製するのは大変な作業で、九州山地でのはなしですが「三日間掘って一斗弱とる」のがやっとだといいます。この根は東洋医学の分野でも「葛根(かっこん)」という重要な生薬となり、解熱作用があって風邪薬などに使用されます。

 万葉歌人、山上憶良によって秋の七草に詠まれたその花ですが、大きな葉の陰に隠れて目立たないものの、臙脂と小豆色が混ざったような色合いで奥は黄色、独特なしぶい味わいがあって好きな花のひとつです。手にとって顔を近づけると、お菓子のような甘い香りがしました。  古来クズを詠んだ数多くのの和歌の中でも釈超空(折口信夫)のものは近代の名歌としてご存知の方も多いと思います。

葛の花 踏みしだかれて色あたらし
この山道を行きし人あり

 このうたですが、中学か高校の教科書でみただけで、作者 釈超空 がどんな人かも知らず、まして和歌などになんの興味もなかったはずなのに、なぜか五十年以上経ったいまでも鮮明におぼえているのは不思議です。ほんものの「言葉の力、うたの調べ」というものは、きっと知らぬ間に人の心にしみて来るということなのでしょう。

(ハ)