前回このコーナーでご紹介したカタクリは、春に咲く草花を代表するものですが、蝶の中にも春にだけ姿を現すものがいます。ただ、一口に春の蝶と言っても出現時期はいろいろで、すべての種類が同時に見られるわけではありません。

今回ご紹介するツマキチョウは、上越の平地では、春のチョウの代表とされるギフチョウが現れる4月中旬頃と、新緑の中をフワフワと飛ぶウスバシロチョウが現れる5月中旬頃のちょうどあいだのタイミングで、5月の初め頃にその姿が多く見られます。

別に珍しい種類ではありませんが、街中では見られず、郊外の雑木林の小川の流れる草地のようなところにすんでいます。低いところを直線的に飛び、イヌガラシやタネツケバナなど幼虫が食べる植物の花などで吸蜜します。飛んでいるとまっ白な蝶に見えますが、とまったところを見ると、ハネの先がかぎ型に曲がってとがり、オスの表面はその部分が黄色で彩られ、裏面はオスメスともに白地に緑の唐草模様になっています。派手ではありませんが、とても上品な美しさを持った蝶です。

少しチョウに詳しい方なら、ツマキチョウと聞くとすぐにクモマツマキチョウを連想されるでしょう。ツマキチョウと同じなかまですが、こちらは色彩がずっと華やかで、人気も高く、蒐集家にとっては憧れの存在です。上越では妙高市と糸魚川市の標高の高いところでわずかに確認されているだけで、どこでも簡単に会える蝶ではありませんが、残雪をバックに渓流沿いを飛ぶオレンジ色は、一度見たら忘れることはありません。

でも、だからと言ってツマキチョウの美しさがそれに劣るとは思えません。もし、ツマキチョウが限られた場所にしかいない珍しい種類で、逆にクモマツマキチョウがそのへんの平地に普通に飛んでいたら、評価はきっと逆転していたでしょう。実際にヨーロッパなどではクモマツマキチョウは平地の普通種で、日本でのように貴重な存在ではありません。

昆虫採集歴45年の私にとっての思い出の一つに、ずっと昔、妙高市関山で見つけた黄色いハネのツマキチョウがあります。たまたま仕事の途中で見つけ、花にとまったところを見て驚き、とっさに帽子ですくって採ったのですが、幸いにハネも傷つかず、きれいな標本にすることができました。黄色と言ってもキチョウのメスよりもうすい色調ですが、普通の白いツマキチョウの標本が並んだ箱の中でその存在は異質で、私の宝物のひとつです。

昆虫採集をしていてよかったと思うのは、こんな異常型に偶然に巡り合ってうまく採集できたときです。逆に、せっかくチャンスに恵まれながら取り逃がしてしまった時はおもいきり落ち込んでしまいます。通常、異常型には同じものは二つとして存在せず、つまり次のチャンスはもうないわけですから。

振り返ってみると、喜ぶよりも落ち込む場面のほうが多かったと思うのですが、いまも鮮やかによみがえるのは、うまく採れた時の何とも言えない昂揚感です。
こんな感動があるから昆虫採集はやめられません。  (ミ)