今では考えられないことですが、かつては日本でも、農作物を育てるために強い農薬が使われたことがありました。私がまだ小学生だった頃、学校帰りにあぜ道を歩くと、死んで白くなったドジョウやヒルが田んぼの水底に点々と散らばっていたことが思い出されます。
今は農薬の規制も厳しくなり、農作物の安全性も当時と比べ格段に高まりました。一時は姿を消していた田んぼの生き物たちも、チョウセンブナなどを除き、かなりの種類がまた戻ってきています。

そんな生き物たちの中で、自然豊かな田んぼの象徴とも言えるのがホウネンエビです。農薬を使わない水田に発生し、これが出た田んぼは豊年満作になるとの言い伝えから名前をつけられたそうです。エビという名がついていて一応は甲殻類ですが、本当のエビではなく、むしろミジンコなどに近い生き物です。

この夏、三和区の友人から田んぼにホウネンエビがいるという連絡をもらい、早速行ってみました。以前、理科の教材の飼育セットで卵から育てたことはありましたが、自然のものを見るのはこれが初めてなので、わくわくしながら教えられた場所で水の中を覗き込みました。そして、最初の1匹を見つけた時の印象は、「エッ、これが?」 というものでした。前に飼育したものは、小さくて、透き通って、まるでかげろうのように儚げな姿だったのに、自然の中で見るホウネンエビは体長が3センチ以上あり、水の中層で静止している姿は堂々としたものでした。 尾の先が鮮やかな赤色で彩られ、一見するとまるで魚のよう。タキンギョ、ホウネンウオという別名があることや、江戸時代にペットとして飼われていたということも、なるほどとうなずける感じです。

ホウネンエビの大きな特徴のひとつは、卵が非常に乾燥に強いことで、乾いた状態で何年も生き続けることができます。そしてその細かい卵が風に乗って遠くまで移動し、それまでいなかったところに突然現れたりもします。熱帯魚を飼って繁殖を楽しんでいる人にはよく知られているブラインシュリンプも海産のホウネンエビの一種で、乾燥した粉末状の卵を塩水の中に入れて、孵化させた幼生を稚魚の餌にします。

実際に卵の状態で何年生きられるかというのはとても興味のあるところですが、はっきりしたことはわかりません。でも海外の海産の種類(ブラインシュリンプ?)では数十年生きたというデータもあるそうなので、かなり長く生きられるのは確かでしょう。
例えば、永いときを乾燥状態で眠って過ごし、後の世界で誕生したホウネンエビは、自分の遥かな子孫たちを兄弟として一緒に暮らすのでしょうか。SF作家なら、これをヒントに面白い話が書けそうですね。  (ミ)