美しい秋の花々のさきがけとして、その変わった形とスッキリとした紅色の花で私たちの目を引くのはツリフネソウです。

とにかく水の好きな花で、山沿いの流れのそばや、湿地などに群生しているのを多く見かけます。
ある人がその色をたとえて「イチゴの掻き氷の溶けかかったときの色」だと言いましたが、ホントにそんな感じです。
細い柄の先にラッパのような形の不思議な形の花を吊り下げ、それを船にたとえて名がつけられとされていますが、花を逆さにすれば御伽噺の小人がかぶる帽子や靴のようにも見え、見方によってさまざまに連想できる面白い花です。
袋の奥は次第にほそくなり、最後はくるっと渦巻きのようになって終りますが、この部分に蜜が溜まっています。
この蜜を求めておもにマルハナバチの類が頻繁におとずれては花の奥に入ってゆくのが見られます。
奇妙にも見えるツリフネソウの花の形は昆虫を花の奥まで誘い込んで花粉を運んでもらうための巧妙な仕掛けだったわけです。

一個のツリフネソウの花の寿命はわずか二日程度に過ぎませんが、この間、数十回から数百回のマルハナバチの訪問を受けることも観察されているそうです。ツリフネソウの昆虫誘致作戦は非常に有効に働いているように見えますが、一方で、オオマルハナバチという大型のハチは蜜の溜まっている先の部分に直接穴を開け、やすやすと貴重な蜜をせしめてしまうこともあるようです。何事も思い通りには行かないと言うところに自然の面白さ、不思議さがあります。

面白い形の花は昔の子どもの絶好の遊び相手でした。袋の中に指を入れる遊びは誰でも考えることらしく、「ユビハメグサ」、「ユビハメ」、「ユビトーシ」などの呼び方が各地に残っています。
そのほか方言としては旧名立町で「ヤマホーセンコ(山のホウセンカの意:栽培のホウセンカは同じ仲間)」、旧妙高村で「ミズクサ」などが記録されています。
蜜を吸うのは昆虫だけとは限りません。子どもたちも蜜を吸うのは大好きだったはず。花をちぎってはチュウチュウすっている姿が目に浮かぶようです。同じ場所に群れて咲く花は蜜を吸うには効率がよかったことでしょう。今の子どもは見向きもしないでしょうが。

花が終った後、細い艶のある緑色の実をつけますが、熟すと先のほうから割れて巻き上がり、その力で種を遠くまで飛ばします。
まだ未熟なようにみえても、触ったり押したりすると、簡単にはぜるようです。
たびたび紹介する宇都宮貞子さんの著書によると、たねは脂っこく香ばしくてうまいということです。
蜜はともかく、種を食べるというのは全く想像も出来ませんでした。そこに書かれた木曽福島のおばあさんの言葉「昔の子供はいつでも口ざみしかったで」が心にしみてきます。

(ハ)